大阪高等裁判所 平成11年(ネ)390号 判決 1999年6月25日
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
2 大阪地方裁判所平成5年(ケ)第672号不動産競売事件につき平成7年11月17日に作成された配当表の、「配当等の額」欄のうち、控訴人への配当額0円とあるのを1,703万9,342円に、被控訴人への配当額4,837万6,100円とあるのを3,133万6,758円にそれぞれ変更する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二 事案の概要
次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」(原判決3頁8行目から11頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決5頁1行目の「甲1ないし3の2、3」を「甲1、2、3の1ないし3」、6頁3行目の「不動産手続」を「不動産競売手続」と、それぞれ訂正する。
2 原判決7頁5行目の「本件工事代金」の前に「民法327条にいう「債務者ノ不動産ニ関シテ為シタル工事」とは、先取特権の対象たる不動産に対して直接施された工事だけでなく、これと不可分一体の工事をも含むと解すべきであるから、」を付加する。
3 原判決8頁4行目の「必要となった工事であるから、」の次に「本件土地上に施された工事部分と隣接する国有地である水路、里道に施された工事部分とは、不可分一体の工事と評価すべきものである。そして、鑑定の結果においても、工事の費用の把握は、対象地の市場性の向上に寄与した周辺工事を含んで把握すべきであると判断されている。よって、」を付加する。
4 原判決9頁1行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「(三) 当審における主張
不動産競売事件において不動産工事の先取特権が存在するために工事による増価を鑑定した場合には、増価金額だけでなく、予納した鑑定費用を含めて優先配当される取扱いである。控訴人は、原審において本件工事による増価を鑑定するために鑑定費用150万円を予納した。よって、控訴人への配当金額は、本件工事による増加額だけでなく、右鑑定費用150万円も当然加えるべきである。」
5 原判決10頁末行の「最低売却価格」を「最低売却価額」と訂正する。
第三 判断
一 当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないから、棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」(原判決11頁11行目から20頁9行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決14頁3行目の「直接施された工事に限られるものと解すべきである。」を「直接施された工事だけではなく、これと不可分一体とみるべき工事で、当該不動産の価値を増加させたものをも含むと解すべきである。」と改める。
2 原判決14頁7行目の「その余の工事は、」から15頁5行目までを次のとおり改める。
「その余の工事は、本件土地に隣接する国有地である水路、里道に施された工事であるが、本件土地を宅地として造成するために都市計画法上の開発行為の許可を取得する前提として、八尾市開発指導要綱に基づく事前協議の結果施された一連の工事であることが認められる。
右認定の事実によれば、第1期工事及び第2期工事の<2><3>は、本件土地に直接施された工事であるし、第2期工事の<1><4><5><6><7>も、本件土地に直接施された工事ではないものの、本件土地にかかる宅地造成工事と不可分一体をなし、かつ、これにより本件土地の価値を増加させたものであるから(鑑定の結果)、いずれも本件先取特権の対象となりうると解すべきである。そして、鑑定の結果によれば、本件先取特権の対象となりうる工事によって前記配当期日である平成7年11月17日の時点において、本件土地につき620万円の価値の増加があったことが認められる(鑑定結果自体は当事者間に格別争いがない。)。」
3 原判決17頁7行目、18頁4行目及び7行目の各「最低売却価格」をいずれも「最低売却価額」と訂正し、17頁10行目の「利用可能でありる場合」を「利用可能である場合」と訂正する。
4 原判決19頁8行目の「右認定事実」から20頁9行目までを次のとおり改める。
「2 右認定の事実によれば、本件土地の最低売却価額は、その決定過程において控訴人の工事による増価分が全く考慮されておらず、これを前提として定められた最低売却価額に基づいて、売却許可決定がなされている。このように、不動産競売の手続内において、本件工事の先取特権の対象となるべき不動産について工事による増価分が反映されていない以上、不動産工事の先取特権に基づく優先弁済効を主張することは許されないというべきである。なぜなら、不動産工事の先取特権がその登記の前後を問わず抵当権に優先するのは、不動産の工事による増加価額について先取特権が優先しても、抵当権者としては、少なくとも増価前の不動産の担保価値は把握できているから、特に不利益を受ける訳ではないところにある。しかるに、本件のように不動産競売手続内において、不動産工事による増価が当該不動産の評価に何ら反映されていないのに、不動産工事の先取特権者に優先弁済効の主張を認めると、抵当権者としては、当該不動産の増価前の価額から、さらに不動産工事による増価分が控除された範囲でしか担保価値を把握できなくなるという不測の損害を被り、不動産工事の先取特権の趣旨(公平の観点)に悖ることになるからである。」
二 当審における主張に対する判断
控訴人は、不動産競売手続において不動産工事の先取特権が存在するために工事による増価を鑑定した場合と同様、控訴人が原審において予納した鑑定費用をも含めて優先配当がなされるべきであると主張する。しかし、不動産競売手続における取扱いはさておき、配当異議訴訟においては鑑定費用は訴訟費用であるから(民訴費用法18条2項、12条1項、11条1項1号、2条2号)、その負担は民訴法所定の訴訟費用負担の規定に従うべきものであるし、そもそも、控訴人は、本件不動産工事の先取特権の優先弁済効を主張することはできないというべきであるから、いずれにせよ失当である。
三 結論
以上によれば、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと結論を異にする原判決は相当でない。しかし、控訴人のみ控訴した本件においては、原判決を控訴人の不利益に変更することは許されない。
よって、控訴費用の負担につき民訴法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。